人気者。
月に数回、山に登る。
近所の数百メートルの山から県内の1000m程度までで本格登山というわけではなく、日帰りのアクティビティ感覚の趣味だ。
登り終え帰宅すると、猫達は外の匂いか登山靴の中で凝縮された足の臭いか、スンスンスンスンと足元にへばりついてくる。
人気芸能人の囲み取材のように。
ノミやダニを持ち込まないように気をつかってはいるが、それでも過剰な出迎えには少々ドキドキしてしまう。
2匹とも元野良の保護猫だが、今は室内猫で外には出していない。
出会った人の中には、そんなの可哀想だという人もいるし、その方が安心だねという人もいる。
猫の飼い方本や雑誌では完全室内飼いを推奨する内容が多いとは思うし、その内容は共感している。
屋外で交通事故に遭ったら、他の野良猫と喧嘩して怪我したら、その時に病気を移ってしまったら、迷子になって帰って来れなかったら、考え始めると心配は尽きない。
ただ、それでも外の世界で自由に歩き走り、跳び回っていた彼らを小さな家の中だけの世界で完結させてしまっているのは果たして幸福なのかと考えてしまう事もある。
月に数度の山登りは日々のモヤモヤした考えや思いが少し晴れ、心が明瞭になる。
道とはいえないような、でも人や獣が歩いた跡を一人登っていると、そこがどんな小さな山でも普段とは別の領域にいるような錯覚になる。
猫達も、そういったリフレッシュがないのはストレスが溜まってしまうのだろうか。
ひとしきり足元のチェックを終え、膝の上でゴロゴロ言い始めたざらめと、まだ足に蹴りを入れているざらめを見ながら、今彼らは幸せと感じているかなと、またそんな、外がいいとか家の中がベストだとかいう悩みも人間の勝手な考えに過ぎないのではないかと、色々と思考の迷宮に入り込む。